芸備書房

2025.2.5 冬の夜長の書評コーナー 岡安恒武全集 歴程社

 書評コラムですが、広島紙屋町シャレオ古本まつり等もあり、間があいてしまいました。

 今回は、岡安恒武全集(全詩集 散文集) 歴程社 を紹介したいと思います。

 岡安恒武は、栃木県出身の詩人兼歯科医兼皮膚科医です。クリスチャンで歯科医の家庭に生まれ、実家の歯科医院を継いだのち、医師資格を取って皮膚科医としても活躍しました。詩集も味わいがありますが、詩集以上に散文集が面白いです。

 岡安は、実家の歯科医を継いだのちに、医師資格を取得して、栃木県栃木市に皮膚科医院を開業し、のち1953年、栃木県下都賀郡の農村(無医村)にて診療所を開くことになります。散文集は、1953年以降の農村での医療活動や、当時の農村の衛生環境、皮膚疾患や寄生虫疾患、感染症等への医療活動、予防医療(公衆衛生)活動についての散文がまとめられています。

 これを読むと、戦後間もなくの農村の医療環境や公衆衛生はかなり悪かったなと思うと同時に、渡良瀬遊水地(足尾銅山鉱毒事件で被害にあった谷中村が沈んだところ)付近での農村の生活環境を知ることができます。

 詩集についていうと、医師ならではの視点(農村、無医村での医療活動)やクリスチャンとしての視点からみた宗教観、人生観、そして医師でありクリスチャンである所からの人間愛みたいなものが現れていて面白いです。

 なんだか、小説家でもあり軍医でもあった森鴎外との共通点も感じられます。岩波書店刊鴎外全集をみると、小説以外や書簡以外にも、医学論文・随筆が収録されており、小説家ではなく、軍医としての森鴎外を感じられます。岡安恒武全集も同様で、詩人としての岡安恒武ではなく、医師としても岡安恒武を味わえるというのもなかなか面白いです。

 今回はここまでとします。次回もお楽しみに。

 

  

 

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