2024.10.29 秋の夜長の書評コーナー アフガニスタン特集「タリバン復権の真実」他
今回はアフガニスタン特集ということで、4冊紹介します。
1,2冊目「タリバン復権の真実」「宗教地政学で読み解くタリバン復権と世界再編」(中田考 ベスト新書)を取り上げます。
まず、タリバンというのは、アラビア語で(神)学生という意味で、モスク等の付属の学校等で学ぶ学生のことを指し、これら学生たちが、ソ連撤退後のアフガン内戦の混乱をただし、平定したのが第1回タリバン政権、アメリカに倒されて、カルザイ政権の腐敗汚職を正すために再度政権を奪取したのが、第2回タリバン政権です。
時代を少しさかのぼると、アフガニスタンへのソ連侵攻、ソ連撤退後の内戦、1回目のタリバン政権、アメリカによるタリバン政権打倒、カルザイ政権の誕生、アメリカ軍の撤退、2回目のタリバン政権誕生(2021年~)と目まぐるしく移ろい(まるで日本の戦国時代?)ゆくアフガン情勢の中、著者曰く、1回目のタリバン政権と2回目のタリバン政権とでは性質が異なるという点を指摘しています。
1回目はイスラム法の厳格な適用、アルカイダに感化されて世界イスラム革命を目指す方向にかじを切って、アメリカにボコボコにされたのに対し、2回目は、アメリカ主導でカルザイ政権、その後のガニ政権のアフガン政府の腐敗汚職の蔓延を、イスラム法により正すということで民心の支持を得たタリバンが2回目の政権を担うという形で表舞台に出てきたとこれらの本で分析しています。
2回目のタリバン政権が1回目と決定的に違うのが、世界イスラム革命等ではなく、近隣諸国や国際社会との協調(イスラム法にのっとった範囲ではあるが)を試行し、旧政権の人間に対しても寛容をもって遇している点です。簡潔に言うと、1回目とは違って、話せばわかる連中になったという指摘です。
ただし、欧米の人権や民主主義を押し付けるのではなく、アフガニスタンの慣習や文化、イスラム法に適合するなら積極的に国際協調していくという姿勢に変化したということです。
ここで、イスラム法自体が人権抑圧(特に女性の)ではないかとかの指摘もありますが、イスラム法にもそれなりに幅があり、運用適用のやり方次第でいくらでも国際協調できると私は思います。とはいえ、このあたりはいろいろ意見の分かれる点です。少なくとも、アルカイダやイスラム国みたいに世界イスラム革命(イスラム共同体の建設)を試行しないだけだいぶ進歩したと思います。
中田考氏の上記2つの著作で、参照文献として挙げられていたのが、3冊目「タリバン台頭」(青木健太 岩波新書)、4冊目「私のアフガニスタン現代史:破綻の戦略」(髙橋博史 白水社)です。「タリバン台頭」では、主にアフガニスタンの部族社会や風習、タリバン登場の背景等の記述が詳しいです。「私のアフガニスタン現代史:破綻の戦略」では、著者が1975年頃にアフガニスタンのカブール大学に留学し、その後外交官としてパキスタン、タジキスタン、アフガニスタンで勤務しており、アフガニスタン王国がクーデターで打倒され、共和国になったころから、その後の共産主義化、ソ連の侵攻、アフガン内戦、タリバン政権、アメリカ主導のカルザイ政権へとつづく移ろいを、自らのリアルな体験をもとに生々しく記述してるのが特徴的です。
当店では、こういった国際情勢、宗教関係、地政学などの書籍も取り扱いしております。その中から今回は4冊取り上げました。
今回はここまでとします。また、古本屋稼業で出会った、興味深い書籍を時々紹介させていただきます。次回をお楽しみに。
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