芸備書房

久しぶりのブログ 夜長の書評コーナー 中公新書「 言論統制 増補版」2024.7.29

しばらく間があいてしまいましたが、最近読んだ本の紹介をしてみたいと思います。

中公新書 「言論統制 情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 増補版」佐藤卓己 著

 

 

 いわゆる新書(版)という縦17.5cm✕横11cmのサイズの本です(新しい本という意味ではありません)。最初にこのサイズの本を出した岩波書店が、シリーズ(レーベル)の名前を「岩波新書」と名付けたことから、他社も同じような新書シリーズを出し始めました。現在は、岩波新書、岩波ジュニア新書、中公新書、中公新書ラクレ、講談社学術新書、講談社ブルーバックス、小学館新書、平凡社新書、新潮新書、角川新書、扶桑社新書、集英社新書、朝日新書、NHK出版新書、幻冬舎新書、SB(ソフトバンク)新書、文庫クセジュ(白水社)などがあります。

 今回取り上げる本ですが、大日本帝国陸軍の輺重科(いわゆる補給科)将校出身の鈴木庫三が、陸軍省情報部情報官に着任し、雑誌の(言論出版)統制に従事する中で、出版社とのやり取りとか、統制指導とか、鈴木の生い立ち、思想などに触れていく、といった内容です。

 鈴木の面白いところは、いわゆるエリート養成学校といわれた陸軍幼年学校→陸軍士官学校→陸軍大学校というルートを通らず、陸軍砲兵工科学校→陸軍士官学校→陸軍砲工学校→陸軍自動車学校教官兼日本大学文学部助手→東京帝国大学文学部教育学科へ派遣→陸軍情報部情報官というキャリアパスを通っています。

 鈴木は兵卒から入営しているので、陸軍内務班生活の陰湿さを知り、その後の日本大学で倫理学、東京大学で教育学を研究した経験から、軍隊教育学の確立、教育の国防国家を掲げ、旺盛な公演活動、出版活動を、陸軍勤務の傍ら行っており、いわゆるエリート組とは違った活躍をしています。

 現代でいうと、教育というのは、学校教育でなく、社会人教育、会社教育もありますが、まさに軍隊における教育(態度や思想における基本教育研修)に着目し、推進した点が興味深いです。また、日本大学大学院、東京大学大学院を出て、倫理学、教育学を修めているので、出版社のおえら方にも負けない知性と弁舌をもってして、出版社と雑誌の内容や、新聞用紙、出版用紙の配給について統制していました(紙も配給制だった)。

 また、戦前の雑誌や、出版統制、紙の配給統制、出版社の幹部は、日ごろの古本屋稼業で目にしたことのある書籍、人物、会社名が出てきてなかなか面白かったです。

 軍隊(大本営)サイドから見た戦前の出版界の事情や、教育面(軍隊、民間含め)から国防国家、国家総力戦体制へと向かう時代の流れをしることのできる興味深い本です。

 個人的な感想としては、戦前の軍隊内教育と、現在の会社・官庁教育(従業員教育、管理職教育、役員教育)とよく似ているなと思いました。所詮は、人間がつくる組織はそう変わるものではないということです。

 今回はここまでとします。また、古本屋稼業で出会った、興味深い書籍を時々紹介させていただきます。次回をお楽しみに。

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