2025.9.28 秋の夜長の書評コーナー 近代日本の地下水脈ⅠⅡ 保阪正康 文春新書
9月に入っても残暑が続き、20日を過ぎてからようやく涼しくなってまいりました。しばらくさぼってしまいましたが、書評コーナー秋の編として再開します。
さて、今回紹介する本は、近代日本の地下水脈ⅠⅡ 保阪正康 文春新書 です。
保阪正康氏の『近代日本の地下水脈』シリーズは、昭和史研究の第一人者として知られる著者が、約5000人の歴史証人を取材した経験を基に、日本の近現代史を「地下水脈」という独自の視点で読み解く新書です。Ⅰは2024年1月刊行、Ⅱは同年7月刊行で、全体として太平洋戦争敗因の謎から、現代の政治・思想の源流までを追っています。
Ⅰ巻は、明治維新後の日本が「欧米列強にならう帝国主義国家」として軍事優先の道を歩み、太平洋戦争敗戦に至った過程を、「地下水脈」という史観で解明します。表層的な事件史ではなく、軍部中心の国家運営がもたらした歪みを焦点に、なぜ「玉砕」や「特攻」といった無謀な作戦で多大な人命を失ったのかを問います。著者は自身の昭和史研究の原点として、これらの謎を解くために取材を重ねてきたと語り、軍事国家の悲劇が現代の失敗の源流であることを指摘。幕末から戦後にかけての政治史を俯瞰できます。
Ⅱ巻はⅠの続編として、戦前日本の思想史に焦点を当て、右翼(国家主義・テロリスト)と左翼(マルクス主義)の源流を「地下水脈」で探ります。大正期の結社「老壮会」を起点に、国家主義者からアナーキストまでが交錯した思想の合流点を描き、なぜ共産主義が日本に根づかず、陸軍青年将校が北一輝の国家社会主義に傾倒したのかを分析。井上日召らテロリストの横行から、安倍晋三元首相暗殺までつながるテロルの系譜を検証し、現代の政治対立の背景を明らかにします。軍事主導の日本型資本主義(終身雇用・年功序列の源流)も取り上げ、戦争が「営利事業」化された構造を指摘しています。
まとまると、政治史、(政治)思想史の2つで、幕末から戦後日本にかけての政治、思想の流れを把握することができ、その流れは、現在における日本政治の思想的違い、対立までに影響を及ぼしていることが分かります。Ⅰ巻9pに幕末に模索された5つの国家像が下記のようにかかげられているが、これは現在でも通じる視座でしょう。
①欧米列強にならう帝国主義国家
②欧米とは異なる道義的帝国主義国家
③自由民権を軸にした民権国家
④アメリカにならう連邦制国家
⑤攘夷を貫く小日本国家
の5つです。ベクトルとしては攘夷↔開国、帝国(中央集権)↔民権(連邦)、日本・アジア↔欧米 といえます。
現代においては、反グローバリズム↔グローバリズム、大きな政府(財政出動)↔小さな政府(新自由主義)、改革(日本独自)↔米国追従 といったように読み替えられます。また、幕末にはなかった視座として、資本主義↔共産主義 があります。もちろんそれぞれの間にはグラデーションがあり、例えば、資本主義↔共産主義の間には、修正資本主義(ケインズ経済学、MMT)や、社会民主主義といったものが位置しています。細かく言うと立憲君主制↔共和制、中央集権↔地方分権もありそうですが、前の4つに比べると大きな争点ではないかもしれません。
この様に考えるとだいたいこの4本の軸で、日本の各政治団体のマトリクス図ができそうな気もします。
いかがだったでしょうか?今回の書評は以上とします。次回もお楽しみに。
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