2025.2.7 冬の夜長の書評コーナー 中国共産党聖地巡礼 関上武司 パブリブ
今回の書評コラムは、中国共産党聖地巡礼 関上武司 パブリブ を紹介したいと思います。
中国共産党聖地巡礼とは、中国語で「紅色旅遊」といい、中国共産党ゆかりの場所や、革命聖地・史蹟、中国共産党関連の博物館を訪問し、愛国心(中国共産党への忠誠?)を醸成するものです。
この本は、著者が、中国各地の革命聖地・史蹟や博物館等計29施設を訪問取材したものです。
しかし、江沢民時代から始まった「紅色旅遊」が、習近平時代になってさらに強化されているのが何とも言えない気持ちになります。また、テロ対策やコロナ対策とかで、訪問・入館(入場)にスマホで事前予約、パスポート提示が必要な施設が多く、面倒くさいことこの上ない気がします。これで観光業強化とかいっていて、なんだかなーと感じです。
本の帯にも書いてありますが、「大躍進・文化大革命・天安門事件はほぼなかった事に」のとおり、中国共産党に都合が悪いことは触れないのがあたりまえです。何かの格言にある「何が書いてあるかよりも、何が書かれていないかが重要だ」を地でいくような話ですね。都合の悪い歴史には触れない、中国共産党による統治の正統性をひたすら強調する(そのためにも日本は悪役、台湾回復は核心的利益等々)のが特徴的です。歴史の話でも近現代史中心で、元寇(中国が日本を攻めた戦争)などはほとんど触れていないと思います。
私事になりますが、20年ぐらい前(江沢民時代)に中国に住んでいたことがあり、その時も「紅色旅遊」が奨励されていて、大企業の研修旅行(たしか中国移動通信だったかな)で革命史蹟を訪ねたり、江沢民提唱の「三つの代表」理論※研修なんかしていて、テレビのインタビューに参加者が「史蹟訪問や研修での学習を通じて、企業経営の近代化現代化に非常に役立っています」とか答えていて、どこをどうしたら役立つのかさっぱりわからんと思ったことを思い出しました。
中国を考えるうえで、中国共産党が政府(行政、司法、立法、解放軍他)、人民を指導する、ということがポイントで、要するに中国共産党の綱領、今年の運動方針、指針などが法的拘束力(法源性)を有する(つまり法律の条文よりも優先する)ということが分かった時に、現代中国法の解釈運用が理解できたことを思い出します。
各施設の展示内容はここでは触れませんが、上記のことを踏まえて読んでいただくと、味わい深いものになると思います。次回もお楽しみに。
注※「三つの代表」理論とは、中国共産党が以下の3つを代表するというものです。
①中国の先進的な社会生産力の発展の要求 ②中国の先進的文化の前進の方向 ③中国の最も広範な人民の根本的利益 ここでのポイントは、本来共産党は前衛的労働者を代表し、小農民階級を同盟者とし、資本家階級に敵対する、階級政党であるのに対し、社会主義市場経済の下では、資本家(企業家)も取り込まないと都合が悪いので、共産党は資本家も含めた広範な利益の代表ということにした理論です。もちろん共産党が労働者階級の前衛部隊であり、その最終目的が共産社会の建設であるという建前は維持しています。
そう考えると、習近平理論(中国の夢)とかは、中華民族などとよくわからん概念を持ち出して、共産党の指導に基づく対外拡張理論(一帯一路等)では?と思います。
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