2024.9.3 夏?の夜長の書評コーナー 「鉄道ミステリーの系譜」原口隆行 交通新聞社新書
最近読んだ本の紹介。「鉄道ミステリーの系譜」
シャーロック・ホームズから十津川警部まで
原口隆行 著 交通新聞社新書 ISBN:9784330698168
今回取り上げる本は、鉄道ミステリーの話です。交通新聞社新書は、鉄道を中心とした交通関係の書籍を多く出している交通出版社の新書レーベルです。交通出版社では、定期刊行物として、JR時刻表や鉄道ダイヤ情報などを出しています。
鉄道関係の本で、この本が異色だなと感じたのは、「鉄道とミステリー(推理小説)についての考察」というなかなかレアなネタを扱っている点です。著者曰く、鉄道とミステリーの相性は抜群と言い切っています。
アメリカ人のエドガー・アラン・ポー作「モルグ街の殺人事件」1841年刊から始まる推理(探偵)小説と、1830年にイギリスで初めて誕生した鉄道とが、1866年刊「信号手」チャールズ・ディケンズ、1898年刊「消えた臨急」コナン・ドイルを皮切りに、1912年「ソープ・ぺイズルの事件簿」V・L・ホワイトチャーチで鉄道ネタを基にしたトリックが使われるようになります。
個人的には、鉄道ミステリーは、列車内で殺人事件とかはほとんど起こらないのであまり現実感が乏しいとか思えますが、鉄道ネタは、鉄道の時刻表や列車の編成など、トリックのネタが満載なのはそのとおりだと思います。ひょっとしたら昔は列車内殺人とか多かったのかもしれません。アガサ・クリスティー「オリエント急行殺人事件」などもありますし。
もちらん、海外だけでなく日本においても、戦前から数多くの推理作家が鉄道ミステリーを手掛けています。戦前では、江戸川乱歩、本田緒生、甲賀三郎、葛山二郎、浜尾四郎、海野十三、大阪圭吉、夢野久作、蒼井雄、戦後では、横溝正史、芝山倉平、渡辺啓助、土屋隆夫、島田一男、鮎川哲也、松本清張、森村誠一。斎藤栄、西村京太郎などと大御所作家がならびます。
著者曰く、鉄道ミステリーは作品当時の時刻表や車両編成などをもとにトリックを考えたりするので、作品当時の世相がより濃くあらわれるといっていますが、たしかに鉄道ダイヤも、車両も、編成も時代とともに変わっていくので、うなづけるところです。古い時刻表が鉄道ファンや鉄道ミステリーファンに需要があるのも頷けます。
これだけの大御所が、鉄道ミステリーで数多くの名作を出しているにもかかわらず、個人的にはどうしても現実味が乏しい感が否めないのです。鉄道車両の中で殺人事件なんてほとんど発生しないのに、例えば西村京太郎は毎年何人車内で殺しているんだ?とか考えてしまいます。現実と、推理・ミステリー・謎解きの面白さを分ければよいのでしょうが。
ちなみに鉄道マニア兼鉄道ミステリーマニアってどのくらいいるのでしょう?本書ではこの疑問については答えていないので、だれか知っている人がいたら教えてほしいです。
個人的には鉄道マニアのうち、時刻表鉄や乗り鉄には、鉄道ミステリーマニアは居そうな気がするが、撮り鉄、車両鉄、模型鉄にはあまり居ない気がしますがどうでしょうか?
今回はここまでとします。また、古本屋稼業で出会った、興味深い書籍を時々紹介させていただきます。次回をお楽しみに。
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